皆さんこんにちは。7月に突入し、気温も上がりいよいよ夏本番となってきましたね!
そして、今日は七夕ということで童謡の「たなばたさま」を思い浮かべる方もいらっしゃるかもしれません。そんな歌を引き立てる伴奏はピアノで演奏されることが多いですよね。
ところで、皆さんは上智大学の6号館の1階に、とても古いピアノが展示されていることをご存じでしょうか。ピアノの表面は剝がれてしまっているところもあり、見るからに年季が入っています。今回の記事はこのピアノが歩んだ歴史について迫ります!
ベーゼンドルファーのピアノについて
6号館に展示されているピアノは、ドイツ人の神父によって運んでこられたと言われています。ピアノはベーゼンドルファー(Bösendorfer)のものです。このベーゼンドルファーというメーカーはスタインウェイ&サンズ(STEINWAY&SONS)、ベヒシュタイン(C.BECHSTEIN)に並ぶ世界三大ピアノの1つであり、「ウィーンの至宝」とも呼ばれています。
今回、ピアノの管理をしてくださっているソフィア・アーカイブズの職員さんの許可の下、特別にピアノを弾かせていただきました(通常、ピアノに触れることは禁止されています)。
弾く前はほとんどピアノの音が出ないのかな、と思っていたのですが、鍵盤を叩いてみるととても綺麗な音を奏でることができ、ペダルも機能していました。演奏している時に、若干弾きづらい鍵盤はありましたが、さらっと演奏するには十分なクオリティでした。実際に弾いてみると、暖かみのある音が特徴とされているベーゼンドルファーの、優しい音色に包み込まれるようでした。現在ピアノが置かれている6号館が、コンサートホールのように綺麗に音が響き渡る空間だったこともまた、ピアノの良さを際立たせていて、とても良かったです。今回、ピアノを弾いたことでフランツ・リストが驚愕したとも言われているベーゼンドルファーの頑丈さと色褪せることのない品質の高さを身に染みて感じることができました。
上智大学とベーゼンドルファーのピアノ
1932年6月14日に、関東大震災で崩壊した旧校舎に代わって、新校舎として建てられた現在の1号館2階にあった講堂でその落成式(工事が完了して建築物などが出来上がったことを祝う儀式)が催されました。その時、ベーゼンドルファーは講堂の舞台上にあり、初めて上智大学の校歌が歌われた際に使用されたと言われています。ただ、このピアノがいつから大学に置かれていたのかは現在もなお不明なままです。
落成式の後は弾かれることもほとんどなく、そのまま放置されていたそうです。その状況を知った1970年代中期の合唱団体の学生がピアノを使わせてほしいと大学に交渉し、当時学生たちが練習場として使っていた1号館の408教室に運ばれたそうです。そして、その後は11号館の704教室に移されました。6号館に展示されるようになった経緯は、練習用ピアノが新調されることを機に、2019年9月から大学でベーゼンドルファーのピアノを保存するようになったためです。
過去には、音楽協議会が主となって、毎年ピアノの調律を行っていた時期もあったそうですが、費用がかかるため現在は調律されていません。ピアノの傷みの度合いはひどく、完全に演奏できる状態に復元するには多額の費用が必要とされるようです。(上智新聞548号より)
なぜ、こんなにも傷んでしまったのか
ピアノは経年劣化で現在のような姿にはなっていると思っていましたが、1970年代ごろから既にボロボロであったことが、講堂に放置されていたピアノを1号館408教室に運ぶことに携わった方の証言で分かりました。つまり、1号館の落成式からたった30年ほどで傷んだ状態になってしまっていたということです。なぜ、こんなにも早く劣化が進んだのかというと、1号館にて保管されていた時に冷暖房の近くに置かれていたことが、湿度や温度の変化に敏感なピアノにとって、過酷な状況であったため、故障へとつながったからではないか、と考えられています。
上智大学の校歌
上智大学の校歌は1号館の落成に合わせて制作されました。歌詞は校内で公募し、当時文学部哲学科所属の逸見貞男氏(1933年卒)の詩が選ばれました。曲は作曲者、指揮者である山本直忠氏によって作曲されました。ドイツ和声のしっかりとした基礎を踏まえ作曲された校歌は現在に至るまで、上智大学生によって長きにわたって歌い継がれてきました。もしかすると、落成式の際に山本氏が6号館に展示されているベーゼンドルファーのピアノを演奏していた可能性も否めません。
まとめ
6号館に訪れた際に「この展示されているピアノって何に使われていたのだろう?」とふと疑問に思ったことから、今回記事を書くに至りました。ピアノの歴史を紐解くと、90年以上も前から大学にあったことを知り、どんな人がこのピアノを演奏していたのだろう、と想像すると、ノスタルジックな気持ちになりました。そして、ピアノを弾かせてもらったことで長年人々が使ってきた歴史を持つ楽器特有の味や暖かみを音から感じ取ることができました。今は観賞用のピアノとなっていますが、ピアノ本来の音色を奏でる楽器としての役割を果たせるような日がいつか来たら良いな、という思いが記事を書いたことでとても強くなりました。
参考資料
グリークラブOB会ニュース改訂通巻No.005 p.14-15 ベーゼンドルファー物語・補足 2016年7月9日発行
上智新聞548号 2017年7月1日発行
SOPHIANS NOW 178号 2015年11月25日発行
https://www.sophiakai.gr.jp/issue/sophiansnow/2015112501.html
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2024.04.08