誰でも弾けるピアノの正体とは?
2025.05.23
こんにちは! ゆづです。
突然ですが、皆さんは上智大学13号館のお隣に日本屈指の音楽ホール(クラシック音楽・邦楽のためのホール)があることをご存知ですか? そう、それは日本製鉄紀尾井ホールです。
私ゆづとノア記者、学生センター職員の方で先日、取材のためにこちらのホールにお邪魔しました。そして取材後、コンサートにご招待いただき、ホールで実際に音楽を聴く機会に恵まれました。そこで今回は、ホールの魅力をより多くの方々に伝えるべく、日本製鉄紀尾井ホールでの演奏会のレポートをお届けします!
先週配信のこちらの記事「さあ音楽を聴きに行こう! 日本製鉄紀尾井ホール(#332 さあ音楽を聴きに行こう!日本製鉄紀尾井ホール | FIND SOPHIA」を読んでいただくと、日本製鉄紀尾井ホールをより深く知ることができます! ぜひお読みください。
今回伺ったのは、2025年6月11日(水)に行われた、ハープ奏者であるグザヴィエ・ドゥ・メストレさんのコンサート。メストレさんは世界屈指のオーケストラであるウィーン・フィルハーモニー管弦楽団、通称ウィーン・フィルのハープ奏者でもあったそうです。クラシック音楽にあまり馴染みのない方でも、ウィーン・フィルという言葉を聞いたことがある方は多いのではないでしょうか?
今回の演奏会は、前・後半の二部制。前半はメストレさんソロでの演奏、後半は弦楽四重奏団(カルテット)やフルート、クラリネットのソリストの方々が加わってのアンサンブル形式でした。
そして開演前のステージには、既にハープの姿が……! ハープを写真に収めている方も多く、私も「記念に!」と思い写真を撮りました。
私はハープをソロで聴くのが初めてだったので、「どんな音が響くのだろう」とワクワクしながら開演を待っていました。
19:00に開演を知らせるアナウンスのあと、しばらくするとメストレさんがステージに姿を見せました。世界的なハープ奏者であるメストレさん。ホールが沢山の拍手に包まれる中、演奏会は始まりました。
・アルハンブラの思い出(タレガ作曲・メストレ編)
スペインの作曲家、タレガの作品。私はこの演奏会で初めてこの曲を聴きました。この曲では、トレモロと呼ばれる、一つまたは複数の音を素早く反復させる奏法をもとに、美しいメロディーが奏でられていました。そして、強弱のスケールは曲の冒頭と終盤で全く違っていました。ささやくような高音の繊細な音色で始まり、終盤は跳躍の音が一音一音しっかりと奏でられ、音の広がりが感じられました。演奏会終了後、この曲の美しいメロディーが恋しくて、メストレさんの過去の演奏動画を見つけて家で何度も聴いています(笑)。(ゆづ記者)
・月の光(ドビュッシー作曲)
フランスの作曲家、ドビュッシーの作品。この曲は元々ピアノのための作品ですが、聴いたことがある方も多いのではないでしょうか? 冒頭の和音の重なりが中心の箇所と、中間部の細かい音符が連なる箇所の対比が印象的でした。特に中間部のアルペジオ(本来複数の音を同時に響かせる和音を分散させたもの)のハープの音色がとても美しかったです。私は、これまでハープは連符のような細かい音符の動きを主に担う楽器だと思っていました。ですが今回、和音を響かせて作り出す長いフレージングを聴くことができ、ハープという楽器に対する理解が少し変わったように思います。また、以前この曲をピアノで弾いたことがあったので、ピアノの音色とハープの音色の違いも楽しむことができました。(ゆづ記者)
・モルダウ(スメタナ作曲・トゥルネチェク編 op.43)
チェコの作曲家、スメタナの作品。「ヴルタヴァ」という名前でも知られています。この曲は元々オーケストラで演奏するために作曲されました。こちらの曲も一度耳にしたことがある方も多いはず! 今回演奏されていたのは、ハープのためにアレンジされたもので、オーケストラ版との違いを随所に感じました。オーケストラでは様々な楽器が異なるパートを担当していますが、ハープではそれを一人で表現します。冒頭の部分では一音一音が繊細に奏でられ、あの有名なメロディーの部分では主旋律を雄大に、そして伴奏はそれを支えるように力強く演奏されていました。主旋律(メロディー)と伴奏を同時に奏でられる楽器であるハープ。その特性を存分に感じられる演奏でした!(ゆづ記者)
・神聖な舞曲と世俗的な舞曲(ドビュッシー作曲)
現在主流のハープはピアノ・メーカーのエラール社が開発したペダル・ハープ(ペダル操作で♯や♭が付いた音が出るハープ)ですが、同時期にクロマティック・ハープ(半音を含む全部の音が独立した弦を持つハープ)を開発していたライバルのプレイエル社がドビュッシーに依頼して書かれたこの曲、元はオーケストラで演奏されるレパートリーとして知られています。紀尾井ホール室内管弦楽団メンバーで名古屋フィルのコンサートマスターを務める森岡聡さんや、東京都交響楽団のヴィオラ奏者である石田紗樹さんらの実力派が揃う弦楽四重奏団、エウレカカルテットがオーケストラパートを担い演奏されました。前半の神聖な舞曲では牧神の午後への前奏曲を思わせる神話的な旋律を、メストレさんが長いフレーズ感ですすめていきました。後半の世俗的な舞曲は、ワルツ風の三拍子。メストレさんのテクニックをあらためて感じるとともに、四重奏との絶妙な掛け合いも印象的でした。ソリストとしてだけではなく、オーケストラでもキャリアを積み重ねてきたメストレさんのアンサンブル能力の高さを聴くことができました。(ノア記者)
・序奏とアレグロ(ラヴェル作曲)
フランスの作曲家、ラヴェルの作品。後半のプログラムに並んでいた作品は、全てフランス出身の作曲家のもの。想像になりますが、メストレさんがフランス出身であることと関係があったのかもしれません。
こちらの曲では、エウレカカルテットの皆さんとフルート、クラリネットのソリストの方が加わり、計7人で演奏されていました。この曲は、「序奏」の部分と「アレグロ」の部分の2つに分かれていました。ハープと弦楽器、管楽器の音の重なり合いを聴き、時には弦楽器や管楽器を引き立てるハープ、また時には主旋律となって先導するハープという異なる2つの音色を聴くことができました。特に心に残ったのは、「アレグロ」の終盤の部分。7つの楽器の音が響き合い、渦巻くようなメロディーを奏でて、幻想的な響きで幕を閉じました。最後の一音の響きは言葉にするのが難しいほど、美しい響きでした。ぜひ皆さんにも聴いていただきたいです!
メストレさんの演奏を聴いて、ハープの表現の幅の広さに驚きつつ、細やかに紡がれる音に感銘を受けました。ささやくような繊細な音から芯から響かせた力強い音まで、メストレさんが奏でるハープから様々な音が聴こえてきました。指や腕の力加減を調整するのだけではなく、時にはハープ自体を揺らして演奏されていたのが印象的でした!
今回は、演奏された曲をいくつか抜粋する形で感想を載せさせてもらいました。日本製鉄紀尾井ホールの公式ホームページからこの演奏会のプログラム(https://kioihall.jp/concert/20250611k1900/?date=2025-06-11&time=19:00)を見ることができるので、気になった方はぜひ一度聴いてみてください✨
私は今回の演奏会にご招待いただく以前に、日本製鉄紀尾井ホールでの演奏会に行ったことがありました。その際はホールの構造上の特徴や音響の特徴について何の知識も持っていなかったため、取材の前後で「音の聴こえ方」がガラッと変化したように思います。322号の取材記事にも掲載していますが、日本製鉄紀尾井ホールの音響は満席時で1.8秒。今回の演奏会はほぼ満席だったので、次々に奏でられるハープの音が余韻を持って感じられました。ハープの響きで溢れるホール内は、まさに楽園そのもの。「目の前の音楽に集中し、生の音を楽しむ」というホールならではの楽しみ方を実践することができました。また、今回の演奏会でハープがピアノのように、メロディーと伴奏を同時に奏でられる楽器だということも初めて知ることができました。ホールに足を運ぶことで、このような新たな発見も生まれるかもしれませんね。
さて、最後に考えたいのは、日本製鉄紀尾井ホールと上智大生とのかかわり方についてです。インタビューでも、ホールと上智大学が地理的に隣り合っていることから「若い世代、こと上智大生はホールとどのように関わっていけばよいか」というテーマでお話を伺いました。
現代は娯楽が多様化し、私たちの周りにはすぐに楽しい点や面白い点を見つけられる娯楽も増えてきました。ですが、時間的な早さだけでなく、じっくりとものを味わうのも一つの楽しみではないでしょうか? クラシック音楽や邦楽をその歴史から高尚なものと捉えている方もいるかもしれません。ですが、元々クラシック音楽も邦楽も娯楽の一つでした。過去に眼差しを向けて、じっくりと音楽を楽しんでみませんか?
日本製鉄紀尾井ホールは上智のすぐ隣にあります! 地理的な近さから、上智大生は気軽にホールを訪れることができます。お昼の公演であれば空きコマでふらっと演奏会を聴きに行けるかもしれません。私自身も古典を楽しみながら、ホールを現代と過去を行き来する場所として捉え、関わっていきたいです。
今回は、日本製鉄紀尾井ホールで行われたハープの演奏会のレポートをお届けしました。この記事を通して、ホールの魅力や実際に演奏会で音楽を聴く意義を皆さんに伝えられていたら嬉しいです。日本製鉄紀尾井ホールは今年(2025年)の8月で修繕工事のため一時休館されますが、休館前に演奏を聴きに行くチャンスはまだまだあります! U29券であれば、かなり手頃な価格で演奏を楽しむことができます! 皆さん、ぜひ日本製鉄紀尾井ホールで「生の音」に触れてみてください。改めて、ホールで演奏を聴く機会を与えてくださった日本製鉄紀尾井ホール様に感謝申し上げます。