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上智のいまを発見

「日本の学生が選ぶゴンクール賞」の選考委員をつとめて

2023.06.22

大学の中と外で、いまおきているあれこれを紹介する「上智のいまを発見」。今回は、「日本の学生が選ぶゴンクール賞」の選考委員を2年務めたフランス文学科2年の志野咲子さんにご寄稿いただきました。

「日本の学生が選ぶゴンクール賞」の存在を知ったのは高3の11月のことでした。ちょうどフランス文学科への進学が決まり、入学までの数ヶ月間を、何かしらの形でフランス語に触れて過ごしたいと思っていたところ、SNSでこの賞の告知を見つけたのです。すぐさま選考委員に応募しました。

ゴンクール賞とは、フランスの小説家であるゴンクール兄弟の遺言により、1903年に設けられた由緒ある文学賞です。本国では、本賞と並んで「高校生が選ぶゴンクール賞」も開催されています。それに倣って2021年に発足した「日本の学生が選ぶゴンクール賞」では、主に大学生が選考委員となり、候補作の中から1作を選びます。

まず日本を5地区に分け、各地区のペースで候補作4冊を原書で読んでいきます。読書会は11月に始まり、3月末に開かれる最終選考会には地区の代表が東京に集まります。そこでそれぞれの地区の「推し」作品をアピールして議論した末に受賞作が決まると、邦訳の出版も確約される流れです。

2年分の候補作。上段が今回ノミネートされた4作品。

わたしは、2年連続で関東土曜日グループの読書会に参加しました。月に2、3回、zoomを介して毎回約1時間かけて話し合いました。これまで読書会に参加した経験のなかったわたしにとって、読書は、自分1人の中で完結するものでした。対して、大学も学部も学年もさまざまなメンバーが集うこの場には、参加者の数だけ多様な視点があります。

異なる切り口からの意見がぶつかり合って新たな解釈が生成される点こそが、読書会の最大の醍醐味だと感じます。この経験は、入学後も学科の授業で大いに役立っています。また、読書会を重ねるごとにメンバーの人柄への理解も深まり、親しみが増してゆくのも大きな楽しみでした。

選考委員に授与される賞状。左は第1回のもので、右が2022年度のもの。

2022年度は、わたしが地区代表として最終選考会に参加してきました。半年近く議論を重ねてきたグループ全員の思いを全て届けようと、「推し」作品の魅力を、言葉を尽くして語りました。各地区代表者の熱い思いがほとばしり、白熱した議論が戦わされた3時間でした。

授賞式の様子。最前列、左から4番目が筆者。

フランス大使館で行われた授賞式とレセプションには、前年の受賞作であるS’adapterの作者、クララ・デュポン=モノさん(Clara Dupont-Monod)もいらっしゃいました。彼女は、主人公たち同様、障がい者を兄弟に持つ「きょうだい児」です。当事者だからこそ描き出せる感情の生々しさが際立ち、舞台であるセヴェンヌ地方の自然の美しさが眼前に広がるような瑞々しい同作は、2回の選考会を通して読んだ全8作品の中でも、特別のお気に入りです。

憧れの作家にお目にかかれただけでも嬉しかったのですが、さらに驚くべき出会いもありました。なんと同作品を訳された松本百合子さんからお声がけいただいたのです。実は松本さんは上智仏文科の卒業生で、わたしの大先輩にあたるお方でした。邦題を『うけいれるには』に決めた経緯などを伺うこともできました。

前年度の受賞作、S’adapterと邦訳版『うけいれるには』。

2回続けて選考に関わったことで、思いがけない嬉しいご縁に恵まれたことも豊かな実りだったと、今振り返って改めて感じます。第3回も参加し、新たな作品や仲間と出会えることを楽しみにしています。

担当者memo

文学の深さに触れ、人間関係にも恵まれ、読書を通して豊かな経験をされてきた志野さん。本の中の世界と現実の世界。これからどのような視点を獲得して、どのように進まれていくのかとても楽しみです。

「上智のいまを発見」では学生の活躍、耳寄り情報、先生によるコラム、先輩紹介など、大学の中と外でおきているあれこれを特集しています。取り上げてほしい人や話題など、みなさんからの情報も募集中。情報提供は findsophia-co(at)sophia.ac.jpまで。記事形式、ビデオ、写真、アイディアなど形式は問いません。どうぞ自由な発想でお送りください。*残念ながらすべての応募情報にお答えすることはできません。採用させていただく場合のみご連絡をいたします。

それでは次回の発見もお楽しみに。