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上智学生記者クラブ通信

#318 研究者ってどんなことをしているの?
Sophia Open Research Weeks開催に併せて

2024.12.20

こんにちは! ひろです。
ここ最近は寒い日が続いていますね。上智生のみなさんは課題もひと段落して楽しい楽しい冬休みが待ち遠しい、といった頃だと思います。

突然ですが、みなさんは「研究者ってどんなことをしているの? 」という疑問を持ったことはないでしょうか。普段授業などで接する機会の多い教授などの先生方ですが、もちろん研究者でもあります。しかしながら普段の大学生活の中では(特に学部1年生である僕のような学生には)あまり「研究者」としての側面に触れることはないかと思います。

そこで、そんな「研究者」の実態に迫るため、研究者の方の講演会に参加し、また上智大学研究機構長を務めていらっしゃる赤堀雅幸先生(総合グローバル学部)と2人の若手研究員PD(特別研究員)・RA(研究補助員)の方にインタビューをさせていただきました。

記事の最後にはインタビューした方のおすすめ入門書のコーナーもあります。冬休みの読書にぜひ!

1.研究者って?

上智大学の研究所

上智大学には学部学科や大学院の研究科といった単位以外にも研究所というものがあり、各先生方は自身が専門とする分野の研究所に所属されています。例えばキリスト教文化研究所や国際言語情報研究所など上智らしい研究所もありますね。これらの研究所を取りまとめるのが研究機構であり、普段の授業とは違う「研究者」としての先生方が活躍していらっしゃる場所です。
研究機構や研究所について詳しく知りたい方は上智大学研究案内をご覧下さい。

そんな研究機構のトップを務めていらっしゃる総合グローバル学部の赤堀雅幸先生に研究所やご自身の研究について伺いました。

赤堀先生の研究室にて。とてもたくさんの本が収められています。

赤堀雅幸先生:
文化人類学が専門、スーフィズムやアラブの遊牧民であるベドウィンなどを研究
総合グローバル学部総合グローバル学科教授、 上智大学研究機構長、
同イスラーム地域研究所所長 (役職は取材時)

上智大学の研究所について

赤堀先生は研究機構長を務めていらっしゃるということでまず初めに研究所での研究について伺いました。その中で強調されていたのは「研究所が仲間と研究する場」であること「未来の研究者の受け皿としての研究所」という点です。「なんとなく大学の教員って1人1人が個別の研究をしているように考えている人が学生でも多いと思いますが、もちろん理工系は基本的に共同研究なのはもちろん、人文社会系の学問でもここ20,30年くらいの傾向として共同研究の重要性が謳われるようになってきています。なので、そうした研究をする場所として研究所は重要になっています。」

そして興味深かったのが、「教員の所属している学部と研究所が結びついているかというと、そういうわけではなくて…・… 例えばアジア文化研究所には外国語学部の教員もいますし、以前は経済学部の教員もいたりしました。なので研究所は学部と重なり合いながらも学部を超えて教員が交流できるという利点もあります。」というものです。実際ドイツ語学科に所属している僕のドイツ語文法の先生は専門が哲学なのですが、赤堀先生曰く、「外国語学部だと専門が別にあってその専門のために使っている言語を教えているという先生もいます。そのような場合、自分の専門分野の研究をする場所として研究所があるわけです。私自身も以前は別の大学の法学部に所属する教員でした。」とのこと。

Qご自身の研究内容について教えてください

分野的には人類学といわれる学問、そしてイスラーム地域研究という地域研究の分野を専門としています。前者の人類学については人間の多様性と共通性みたいなものを両方視野に入れながら人間理解を深めようとする学問です。後者のイスラーム地域研究はイスラーム教徒の人たちを対象としながら彼らがどんな暮らしをしているかなど、いろいろな角度から研究していく学問です。特にエジプトの砂漠の中に暮らしているベドウィンたちが伝統的にどのような社会を作ってきたのか、部族とか出自といわれるような人の関係の仕方に関心を持って研究してきました。またベドウィンのような読み書き能力のない人々はどのようにイスラームを信仰してきたのか。――高度な教義が分からなくても人は信仰することが出来るわけで、そういうのはなぜなんだろうといったことを主に研究しています。

Q研究することの魅力は何だと思いますか。

究極突き詰めれば、それは人間って面白いなっていう話になるんだと思います。人間って本当にいろんなやつがいて、だけど人間なんだ、みたいな…… でもそれは人を対象とする学問――人文・社会科学系の学問に共通のことだと思います。それを哲学でやるのか、文学でやろうと思うのか、人類学でやろうと思うかっていうのはそれぞれの関心でいいと思うんですね。

研究への向き合い方

高校生の時ってこの科目が得意だから将来これを生かして仕事をしたいな、って思ったりすると思います。それが私の場合は国語でそれが生かせる仕事、例えば文学の研究だったり、ジャーナリストになるということを考えて大学に入りました。研究者が自分の専門を決める理由は様々あると思いますが、私の場合は大学の制度で様々な授業をとれたので、授業で一番面白い分野を選んでいったら人類学だったという感じだと思います。もちろん子供の頃からずっと何かが好きで研究者になった人もたくさん知っています。「やりたいことを何でも自由にできる」、ということは研究者をやっていて良かったなと思うことです。

学部生へのメッセージ

研究者になろうと思ったら早いうちに行動を始めることが重要です。自分の頭で考えて、あるいは自分の頭だけじゃなくて心も体も全力で使って、何か知的探求をしたい、そういう気持ちが大切だと思います。――多くの研究者は学部1,2年生の時にそう思い立っているんじゃないでしょうか。もちろん私のように4年生まで迷っている人はいるかもしれませんが、それでも基礎的な知識を身に付けておくことは重要だと思います。その点、大学生の内はせっかくいっぱいエネルギーがあるのでそれは本当にいろんなことを欲張ってやった方がいいだろうと…… 本を読んだり、いろんな博物館に行ったりして自分の知見を広げるというのはどんな職業になるにしても必ず役に立つはずです。
キーワードとしては、楽しんで打ち込めること、打ち込むことが出来てそれに伴う負荷みたいなものを苦と感じないようなことを見つけてほしいです。

専門書を50冊読む

研究者になるにしろ、ならないにしろ、知識を身に付けるという意味でも本を読む癖をつける、息をするように本を読むというのはやっぱり一番重要だと思います。本はWEBなどの文字媒体と違い1冊の中で明確な結論まで書いてある。本を最後まで読んで自分で評価を下せるようになるには、もちろん言語の学習とかと同じですが最初は苦しくてもひたすら読むということが大切だと思います。沢山読んでみないと、どの本がいい本なのかも判断できない。ある種研究者って特定の分野に尖ってしまいがちです。しかしその背景に広い裾野があって尖った専門性との両立を図ることが必要だと思います。急に高い専門性や広い裾野が獲得出来るわけではないのでコツコツ出来る範囲でやっていくことが重要だと思います。本を読まないでどうするって、なんで大学に入ってきたんだろうっていう…… 私自身も大学2年生の時には専門書を1年で50冊読むという目標を立てていました。でも段々と本を普通に読むようになったのでその後は目標を設定していなかったかもしれません。

2.先生たちのソ祭?~Sophia Open Research Weeks~

記者クラブでは先日のソフィア祭に関して2回ほど記事で取り上げました。実は11月にもう1つ、先生たちのソフィア祭ともいえるイベントが開催されていました。

それがSophia Open Research Weeks。2014年から始まり、今年度で11回目の開催となったそうです。先ほど紹介した研究機構に所属する研究所とその他の研究機関などが研究成果を発表する講演会や展示などが行われました。――いわば先生たちの模擬店ですね。

今回僕はSophia Open Research Weeksの数あるイベントの中から、「2024年度上智大学研究機構PD/RAによる研究成果報告会 次世代研究者のいま」という講演会に参加してきました。

そもそもPD・RAとは?

PD(Post-Doctoral Fellow)は特別研究員、RA(Research Assistant)とは研究補助員のことであり、上智大学では次世代の研究者を育成するために博士後期課程を卒業した学生や博士後期課程在学中の学生のなかから選考によって選ばれた人たちを研究者として支援しています。
学外には「科研費」の拠出元である日本学術振興会のPD制度などがあります。
赤堀教授によると、「日本では大学単位でPD・RAの制度を実施し、若手研究者を支援しているケースはまだまだ少ない。」そうです。

講演をしてくださったPD・RAの方々。左端が田中さん、隣が藤田さん、中央が持地さん。

実際の発表

上智大学に所属されているPD・RAの方々が自身の研究内容について発表してくださいました。
その中から数名の方の発表を紹介します。

① ゲーテの『ファウスト』成立史からみる悪魔メフィストフェレス
田中李奈さん ヨーロッパ研究所 研究補助員(RA)

ゲーテのファウスト登場人物の一人であるメフィストフェレスについてゲーテ以前から存在していたファウストの伝説からの描かれ方の違いについての考察を紹介されていました。

僕自身はドイツ語学科ながらゲーテの作品をあまり詳しく知らず、『若きウェルテルの悩み』を軽く読んだ程度だったので、しっかり勉強しなければ💦 と思いました……

② ベルクソンにおけるプロティノスの霊魂論受容の一側面
持地秀紀さん ヨーロッパ研究所 特別研究員(PD)

「生の哲学」で有名なフランスの哲学者ベルクソンについて、彼がギリシャ哲学から受けた影響について、基本的な考え方やギリシャ哲学者のプロティノスを取り上げながら説明されていました。

哲学とは全く縁のなかった僕ですが、1次文献や2次文献を沢山引用されて発表されていて文献研究とはこのような感じなのかと雰囲気を味わえました。

③ テストを見抜く数値のチカラーテスト研究超入門
藤田元さん 国際言語情報研究所 特別研究員(PD)

共通テストから普段の定期試験まで、学生の私たちにとって身近な存在であるテストについて、データを使って考察していくテスト理論について紹介されていました。よいテストとは何か、「得点が高い受験者ほどしっかり正答できる問題が良い問題」というお話はとても興味深かったです。

ついこの間AC TEAPを受けた身としては私たちの受験データもこのような理論に基づいて問題作成に生かされているのだろうか、と考えてみたり……

PD・RAの方へのインタビュー

講演をしてくださった田中さんと持地さんにもインタビューをさせていただきました。

田中李奈さん:
上智大学ヨーロッパ研究所RA、文学部ドイツ文学科卒業、
現在大学院文学研究科ドイツ文学専攻在籍中

持地秀紀さん:
上智大学ヨーロッパ研究所PD、文学部哲学科・文学研究科哲学専攻卒業

Qご自身の研究内容について教えてください

田中さん:
ざっくりまとめると、ゲーテのファウストという作品におけるメフィストフェレスというキャラクターの考察や作中での意義について研究しています。その中でも特にファウストを喜劇的な観点から読み解くことができるのか。喜劇のなかでの悪魔としてのメフィストフェレス、またファウストはゲーテ以前からある伝統的なストーリーなのですが、そんな各作品の変遷などをたどって研究をしています。

持地さん:
基本的にはベルクソンという20世紀フランスの哲学者の思想についてテキストをじっくりと読んで言葉の意味などからその人の考えていた内容を明らかにするということをしています。これまではずっとベルクソンはあまり古代ギリシャ哲学と相容れない思想を持っていたとされていたんですが、テキストを読むとそうとは言い切れない。そう言ったことを糸口としてベルクソンとギリシャ哲学者であるプロティノスの思想的連関を調べているといった感じです。

普段どのように研究をされていますか?

田中さん:
すごく地味ですが、私はもうひたすらやりたいと思った作品の中のテーマに関する文献を収集して、読んで、それをもとに考察をしていくということをしています。

持地さん:
テキストを読むという点は同じですが、ちょっと違うベクトルで言うと、テキストを読むというのは他者を理解するっていうとても高度な一種のコミュニケーションをやっている感じがします。一読しただけではわからないテキストもひたすら読み込み確認をするという作業をすればこれまでとは違った解釈にたどり着く可能性もあって……これはお世話になった先生の1人から教わったことなのですが、哲学研究において何より重要なのは「ラブ&リスペクト」だと。わからないテキストでも嫌にならないでひたすらじっくり向き合うということですね。

田中さん:
だから読書会とかはすごい多いイメージです。同じテーマを研究している人や先生と、というのはもちろんのこと全く違った研究テーマの人と一緒に読書会をやったりして、同じテキストでも全然違う読み取り方をしていたりして、そんな考え方もあるんだと学べる時もあります。

なぜ研究者を選んだのか

田中さん:
私は大学院進学は結構ギリギリに決めました。大学院進学も視野にはいれていたんですが就活もしていて、でも実際に卒論を書いているときにやっぱりもっと勉強してみたいなという風になりました。そのときからメフィストフェレスについてはずっとやっています。大学院に進んだ後もどんどん続けていくうちに面白くなってきて博士後期課程まで進学して今ここにいます。
ゲーテは学部で読まなきゃいけない必修本だったんです。それでファウストを読んだのがきっかけです。それまでは若きウェルテルの悩みとかを知識として知っているくらいだったんですが、ファウストを読んで面白いじゃん、ってなりました。もともとヴィランズ(物語中の悪役)が好きだったということもあってメフィストフェレスが面白いなって。それで卒論のテーマにしようと思ったんです。

持地さん:
僕はもともと子供のころからずっと映画が好きで映画ばっかり見ていたんですね、映画を理解したいと思っていたんですが、そのために映画の本質について学ぼうと思って。――そうすると哲学をやらなきゃいけない。そこでベルクソンに出会いました。研究者になったのはやっぱり映画であれ哲学書であれ作品を理解する楽しさに魅了されたということが強いと思います。
哲学の道は恋の道っていう風にプラトンは言っているのですが、理解したい相手がいて、その魅力に惹きつけられて相手を理解しようとし恋焦がれるさまが哲学の道なんだって。その相手が僕にとってはベルクソンでした。

田中さん:
それで言ったら私はお見合いみたいなものですよね。外からの力でファウストをやることになって、結果はまるという。

研究者の一日について

田中さん:
RA・PD両方に言えることですが、それぞれの役職でやるべき仕事があり、だけどそれ以外の時間で自分たちの研究をしっかりすることのできる時間が確保されています。具体的には研究所に所属している先生のシンポジウムのお手伝いだったりとか、研究所の図書の分類とかの仕事をしています。

持地さん:
PDの場合は基本的にRAの業務と同じなんだけど、PDになるともう一人前の研究者とみなされるんですよね。だからRAに比べて勤務時間も長いし、それから研究をするために科研費を取りにいかないといけない。審査では自分の研究の価値が問われるので、その時に自分の研究はどこに新しさがあるのか、社会にどのように役立てられるかなど、自分の研究の意義を見直す機会が多くあります。

研究をしたいなと思っている学部生へのメッセージ

持地さん:
研究は楽しいけれど大変でもある。いくら自分が頑張っても自分より深い愛を持って研究に取り組んでいる人がたくさんいる。それでも続けようっていう強い気持ちが必要になると思います。

田中さん:
私も今いばらの道だぞ、ということが思い浮かびました……メンタルが意外と求められる気はします。でもやりたいことを思い切りできるという意味ではすごいおすすめです。そしてそれにひたすら没頭できるというのもいい点だと思いますね。

持地さん:
自分らしさを大事にしたいのであれば、何かに没頭したいものがあるのであればいい道だと思います。あとは自分を信じ続けることが重要だと思います。

おわりに

おすすめの本

「読書は大事!」そこで田中さんと持地さんにご自身の研究分野に関するおすすめの入門書を伺いました。

田中さん:
『はじめて学ぶドイツ文学史』、柴田 翔編著、ミネルヴァ書房
『史上最高に面白いファウスト』、中野 和郎著、文藝春秋

持地さん:
『哲学はこんなふうに』、アンドレ・コント=スポンヴェル著 /木田元 /小須田健 /コリーヌ・カンタン 訳、河出書房新社

取材後記

いかがでしたでしょうか。インタビューの内容で書けなかったことがまだ沢山あるのですが、この記事で研究者ってこんな感じ! というイメージを少しでも伝えることができていれば幸いです。印象的だったのは3人とも研究者は好きなことをとことんできることが魅力的ということをおっしゃっていたことです。個人的には持地さんの「素人質問で恐縮ですが」という質問を言われたという体験談も面白かったです。――ほんとに実在していたんですね。持地さんは「これは決して煽り文句ではなく、研究者は視野が狭くなりがちだから、あえて素人であると強調することによって、もう少し広い視点で考えた方がいいと指摘する意図もあるのではないか。」ともおっしゃっていました。なるほど奥が深い……。

長い記事となりましたが最後まで読んでいただきありがとうございました。
記者クラブの記事はこれで今年最後となります。今年300号を数えることが出来た上智学生記者クラブ通信を来年もどうぞよろしくお願いします!
それではみなさん、よいお年を! Guten Rutsch!

ひろ
名前
ひろ
所属
外国語学部ドイツ語学科
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旅行がすき!
上智のいいところ
ほぼ山手線の中心にある立地の良さ