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上智のいまを発見

荻野弘之
アルマ・マーテル・セクンダ・ソフィア

2022.01.11

大学の中と外で、いまおきているあれこれを紹介する「上智のいまを発見」。

普段の授業では知れない学生時代のエピソードなど綴っていただく「先生コラム」 の第2回目をお送りします。先生コラムは教員から次の教員をご紹介いただくリレー形式でお届けします。
今回は、福武慎太郎先生(総合グローバル学科)からのご紹介、荻野弘之先生(哲学科)です!

アルマ・マーテル・セクンダ・ソフィア

卒業式の謝恩会(赤坂プリンスホテル別館)にて。荻野先生(右から2番目)と教え子の福武先生(左から1番目)。この年はオウム真理教の地下鉄サリン事件があり、警備員が学内を巡回し、学内のゴミ箱を全部封鎖するという騒然とした雰囲気の中での卒業式でした。

武蔵中・高を出て東大文三(文学部進学コース)に入学した1976年当時、駒場キャンパスにはまだ学園紛争の余燼が燻っていた。朝方、何台もの警察車両が来て何事かと訊ねたら「昨夜駒場寮で内ゲバあり、革マル派の学生が二人重傷」という事件もあった。土曜の午後には「造反教官」有志による「自主講座」も盛んだった。少なからぬつまらない授業には出ないかわりに、同級生で色々な読書会を企画した。古典語は、先生よりは先輩に教わった方が多い。勉強は自分でやるものだと思っていた。78年に本郷(文学部哲学科)に進学すると「百年記念募金反対運動」の学生が「団体交渉」を要求して紛糾。文学部長室を占拠した挙句、失火事件に発展し、毎週水曜は自治会の集会とストライキで、殺伐とした混乱が続いていた。

わが古代哲学の恩師の一人・加藤信朗先生(当時は都立大学助教授)が「東大ではダメだ、授業ができない」というので、やはり非常勤で出講されていた上智の教室を借りることになった。東大の授業(アリストテレス『分析論』の演習)を上智の教室でやり、慶応や都立の院生も出席するという奇妙な光景。だが、所属大学の壁を超えた親密さと熱気に満ちていた。変則だが、案外これが大学の発足当初の姿かもしれない。学問の豊かさは制度化されない余剰のうちにある。

東大には中世哲学の授業がほとんどなく、図書も分散していたので、リーゼンフーバー所長のご紹介で旧二号館にあった中世思想研究所(田畑邦治助手、現在は北海道にある天使大学学長)に出入りさせてもらった。キリスト教文化研究所(事務の岡田多恵子さん)にもお世話になった。モーツァルトの宗教性(ネメシェギ)、典礼の美学(野村良雄)、旧約聖書の文学性(アロンゾ=シェーケル)、宗教と文学(小川国夫)、毎秋の連続聖書講座などの講演会を通じて、カトリックの伝統にふれることができた。当時から上智には公開講座やキリスト教入門講座が沢山あって、学外からの参加者も少なくない。授業料は払わなかったが、「第二の母校」であることは間違いない。 こうした御縁もあって、1992年から文学部哲学科に着任した次第。なお家内は法学部法律学科、長女は文学部史学科の卒業で、両人とも口を揃えて「いい大学だった」と言っている。叱ってばかりいるようだが、一人でも多くの学生に、楽しい思い出を抱いて卒業してもらいたいと願っている。

次回は……

荻野先生から東郷公德先生(英語学科)をご紹介いただきました。次回の「先生コラム」もお楽しみに。