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上智のいまを発見

長町裕司
わたしの学生時代の頃の〈上智大学学生食堂〉と今日の上智の食文化

2023.10.13

大学の中と外で、いまおきているあれこれを紹介する「上智のいまを発見」。
普段の授業では知れない学生時代のエピソードなど綴っていただく「先生コラム」の第11回目をお送りします。先生コラムは教員から次の教員をご紹介いただくリレー形式でお届けします。
今回は、中井真之先生(ドイツ文学科)からのご紹介、長町裕司先生(哲学科)です!

ドイツ文学科の中井真之先生からのリレーで承ったが、先生とは同じ文学部内で、長きにわたって月一度の18世紀末から19世紀初頭のドイツ語の思想的・文学的テクストの研究会を数名の大学院生および卒業生とも共に行っている。

大学キャンパスにおける「食文化」の在り方は、確かに大学教育の根本方針に直接に帰属するものではないだろうし、ましてや伝統を有する私立大学の建学の精神に謳われる内容ではあり得ないだろう。けれども少し省察してみるに、時代的にも生活様式の変動と共に学生たちの新しい世代の気質の変容という要因を考え併せてみるならば、現今の上智大学における(一応、教職員の大学での食の事情に関して問題化せずにおくことにして)若い学生たちの「食文化」の状況はどのように査定できるであろうか。

出会いの場

わたしが上智大学の文学部哲学科の学生(および大学院生)であった頃、それは1975年から1980年代前半で50年近くも前の昔になるのだが、学生たちの大学キャンパスでの食の状況は現在とは相当に異なったものだった。ソフィアタワー(6号館)が厳然と威を構えている敷地には、上智大学男子学生寮をそなえた5階建ての上智会館が存立し、その一階の大きなスペースが学生食堂であった。当時の2時限目の授業が終了となるや、どっと学生たちがこの学生食堂に押し寄せ、昼休みの短い時間内にもワイワイガヤガヤと大音声が響く中で「おまんまにあり付いた」。数年内には9号館地下にカフェテリアが開設されたので、70年代のわれ先に食券を買って席を確保するほどの混み様ではなくなったが、それでも学生たちの需要に応じるために(現在の6号館の入り口辺りで丸善の本と文具のコーナーの外側で)ソフィアバーガーが販売されていた。しかし強調したいのは、当時は学生食堂が新たな出会いの場でとして活性化していたし、また夕方には課外活動のサークル同士での交流も折に触れて行われていたということである。平日の学内課外活動の終了時刻以後に学生食堂で、特に体育会系のクラブの学生たちが顔を合わせるだけでも、同じ時期に練習で培っている若い命からの盛り上がりが感触されることもままあったようだ(確かこの時間帯には、カンビールも販売されていたように思う)。

『卒業アルバム 1975』より

現在の学生食堂

時代変われば、今日の上智大学の食文化は、新世代の多様な食の取り方に対応するかのごとく、2号館5階での箱に入った(少し豪華な)サンドや学内に毎日4台ほども店開きする屋台――かなり値段が張るらしいが、第一ににおいが近辺に立ち込めるのは(ソフィア祭などでの模擬店ならいざ知らず)わたしには大学の構内にあまり品の良いものとは思われない――など食べ物の種類はずっと豊富な内容が提供されているかもしれない。けれども少し見ているだけでも、セブン-イレブンで長い行列を成してやっと手にしたインスタント食品を決まった少数の友だちとランチする学生たちが多いようである。2号館5階の学生食堂には、短い昼休みには極めて混雑するエレベーターの問題もあって、とてもではないが昔のように新鮮な出会いや交流の場とはなり得ていないだろう。わたしは、或る自学科の学生が教えてくれたので、週日で唯一3時限目の授業担当がない水曜日に、13時半を過ぎると200円になるオフピークカレーを毎週食べにゆくことにしている。これまでに何度か、普段なかなかコンタクトがとれない学生やわたしが顧問を務める課外活動サークルの学生にバッタリ出会って、食券を一緒に買って食べながらの会話をしたことがある。これも小さいながら学生たちの今日の食文化に触れる機会とも考えている。他大学での学生食堂で昼食をとらねばならないことも以前から何度かあったが、都内では東洋大学や立教大学の学生食堂には心底から感心させられた。先ず、昼前の授業終了後も多くの学生が簡単に行けるように、1階の広大なスペースに食堂が設けられ、洋食・和食・中華など幾つものコーナーがフル回転しており、日替わりランチも豊富なようである。東洋大学では、その学生食堂が手ごろな値段で抜群に美味しく食べられるということで、近くの企業の会社員の方々までもしばしば食べに来るとか。他所に入ってそれが魅力的に思われるだけかもしれないが、上智大学も大学内での食文化の在り方について、もう一歩研究と工夫が必要ではないかと日頃より思う。

食を通じた結びつき

余談になるがわたしが所属している文学部哲学科では、十数年も前には広く学生仲間と学科の教員たちのために、年の暮れに渋谷などの大きな居酒屋を借り切って「哲学科大忘年会」を催す音頭をとってくれる学生がいて、1ヶ月半くらい前から通知を出して、近年の卒業生たちも参加できる一大イベントの伝統があった。このような一つの例をとっただけでも、学生たちは自分の小さな友人たちのサークルや所属の学年を超えて、先輩後輩の様々な人物と直に交わり知己を得る機会が多々あったと思い起こす。わたしは、学内課外活動では上智聖歌隊と上智大学グリークラブの顧問を長く務めているが、今日でも食を通じての学生たち相互の心の交わりを育む場を開くことへの創意は衰えるどころか、今日の〈ヒューマニティーの危機〉に鑑みてわたし自身の内で益々旺盛となってきたようである。今年2023年度の夏期休暇の期間には、コロナウイルス感染下で数年来開催できなかった「夏期哲学研究合宿」をお盆過ぎに2泊3日で行った。千葉県外房の上総奥津(勝浦の少し南)の守谷海岸に別邸を持っておられる茂原教会の信者さん(卒業生のお父さん)のお世話で、以前から集中的な研究合宿を行ってきたが、此の度は大学院生と学部生(その中には他学科の学生も)を併せて20名もの参加があり、5名の研究発表(秋の諸学会での準備のためのプレ発表や卒論の準備草稿の一部など)をそれぞれ1時間半以上2時間近くじっくりと質疑応答を含めて議論することができた。2泊3日の間、海水浴とゲームを交えての夜の親睦交流会を通しても充実した時間を過ごせたと思う。食事は3食を毎日自分たちでメニューを考えて料理しなければならないが、これがまた特別に楽しく、心の通い合う食卓であった。沖縄出身の女子学生が準備した〈沖縄チャンプル〉や学部生の男子数名とわたしとが協力して煮込んだ〈ビーフシチュー〉は大好評だった。食文化の育成なくして、大学キャンパスでの学生交流の真の発展は望めないと思う。

次回は、神学科の若い教員である酒井陽介先生にバトンタッチした。酒井先生とはキヤンパス内にあるSJハウスに共に居住し、イエズス会の仲間同士である。

次回は……

長町先生から酒井陽介先生(神学科)をご紹介いただきました。次回の「先生コラム」もお楽しみに。