FIND SOPHIA

カテゴリーで探す

コンテンツ名で探す

Sophia Topics

上智学生記者クラブ通信

#231 美術館へ出かけよう
芸術に心ふるわす春休みを

2023.02.17

こんにちは、れいれいです。今日はキャンパスを飛び出して、四ツ谷駅から徒歩約15分(半蔵門駅3・4番出口からは約2分)の戸嶋靖昌記念館へ美術散歩に出かけましょう!

戸嶋靖昌記念館は、著述家・実業家である館長・執行草舟(しぎょう・そうしゅう)氏のコレクションを保存・展示する美術館です。執行草舟氏と深い親交を結んだ画家の戸嶋靖昌(としま・やすまさ、1934〜2006)にちなんで名付けられました。

コレクションは日本画や洋画、書など幅広いジャンルの美術品で構成され、日本の歴史が生み出してきた芸術を今に伝えています。美術館の副館長で上智の卒業生でもある執行真由美さん(神学科卒)にお話を伺いながら、美術館を見学しました。

戸嶋靖昌記念館の外観

生きる糧としての芸術を

1984年(33歳)に酵素食品の製造・販売を行うバイオテック株式会社(現・株式会社 日本生物科学)を創業した執行草舟氏。51歳で山岡鉄舟(1836〜1888)の書を購入したのを皮切りに書画の収集に力を入れ、コレクションを創り上げました。

美術品収集の背景にある思いについて執行氏は、「自分に出来るのは(中略)『日本人の魂が燃えた痕跡』である美術品を収集し、最高の状態で保存し、後世にそのまま伝えることであると思っているのです」(『憂国の芸術』 執行草舟著、講談社エディトリアル)と語っています。

執行氏の長女で副館長を務める真由美さんは、「人間の心を育てることを第一に美術作品を選べる美術館が、日本には少ないように感じます」といいます。美術鑑賞が日常に根付いていない日本では、集客のために流行や話題性を意識した“イベント的”展示を行わざるを得ない美術館が多いのだそう。「営利を目的としない執行草舟コレクションでは、人気の有無に関わらず、後世の日本人の生きる糧となる作品を収集することができます」と真由美さん。作品を通して広い世界に触れ、人生のヒントを見つけることが芸術鑑賞の醍醐味だと話します。

魂を描いた画家、戸嶋靖昌

「優れた画家は、自分の人生をかけて、何かを伝えようとしています。だから、作品を観る人の心に『きゅん』と入ってくるものがあるんです」と真由美さん。まさに全身全霊をかけて制作に取り組んだ画家のひとりが、美術館の名前にもなっている戸嶋靖昌です。

1975年頃、スペインに渡ったばかりのころの戸嶋靖昌。南スペインの村にて(戸嶋靖昌記念館提供)。

武蔵野美術大学で西洋画と彫刻を学んだ戸嶋は、40代でスペインに渡り、グラナダを拠点に約26年のあいだ制作に打ち込みます。晩年に帰国してからは、深い友情を育んだ執行草舟の支援を受けて作家活動を続けました。油絵を中心とした戸嶋の作品の多くが、戸嶋靖昌記念館に所蔵されています。

戸嶋は、スペインの風景や街並みを描いた作品を多く遺しました。2018年にスペインのサラマンカ大学日西文化センターで戸嶋作品を展示した際には、作品から“スペインの空気”を感じるという現地の鑑賞者が多かったのだとか。日本人の作品と聞いて驚く鑑賞者もいたそうです。

グラナダ時代の戸嶋は、市井の人々をモデルにした人物画も多く制作しました。その作品には「人間の外見よりも魂が描き出されている」と真由美さん。モデルの体に顕れる人生の積み重ね、そしてその人生の土台となったスペインの歴史が描かれているといいます。

暗い色調や粗いタッチで描かれた戸嶋の人物画は、いわゆる肉体美とはかけ離れて見えます。戸嶋は生前、「油絵では一番汚い色が一番きれいなのだ」(『憂国の芸術』 )と語っていたそう。真由美さんは、「ただ見栄えのよい姿を描くのではなく、全ての人に訪れる“死”に向かって崩れていく人間のリアルにこそ真の美があると考えた戸嶋の美学を味わって頂きたいです」と話します。

特に印象的だった一枚が、《Desnuda de la luna―月のDesnuda―》。戸嶋がグラナダで出会ったフランス人女性を描いた一枚です。道化師や舞台役者として生活していたという彼女。 月の光に浮かび上がったその体は、歪み崩れかかっているように見えます。真由美さんは「肌がくすみ、肉が垂れるまで懸命に生きた彼女の人生、その生涯を通して彼女がこの世に遺した何かを、この体が物語っているようですね」と話します。

執行真由美さんと《Desnuda de la luna―月のDesnuda―》(戸嶋靖昌、1990年)

コシノジュンコ氏の作品も 2月28日まで

執行草舟コレクションは、進化を続けています。新たに所蔵されたコシノジュンコ氏の作品を数多く展示した企画展「流体の美学」が2月28日まで開催されています。宇宙エネルギーを彷彿とさせる“流体”がいかに芸術に表現されるのかをテーマにしたこの展示。ファッション界を牽引してきたコシノ氏が、80歳を超えて挑んだ作品から溢れるエネルギーは、必見です。

10月下旬(予定)からは、戸嶋靖昌記念館と駐日スペイン大使館が主催する企画展「ZEN&ART―スペインからの視点(仮題)」が駐日スペイン大使館内ギャラリーで開催されます。スペイン人の目から見た“ZEN”を主題に、記念館が所蔵する禅書画や禅的な現代アートなどが展示される予定とのこと。詳細は記念館の公式サイトで随時公開予定です。

おわりに

最後に、真由美さんから学生へのメッセージを頂きました。「大学は学問をする貴重な機会が与えられる場です。皆さん、ぜひ興味のある学問の扉を叩いてみる勇気をもってください」と真由美さん。自分の学科の授業はもちろん、全学共通科目や他学科の授業も楽しんでほしい、と話していました。所属した学科の内外を問わず、在学中に出会った先生や友人とは今でも連絡をとっていらっしゃるそうです。

さらに真由美さんは、「アート作品を鑑賞するとき、背景知識の有無によって理解の深まりに天と地ほどの差が出ます」と話します。戸嶋の作品には、カトリックの土壌に育てられた人々や街並みが描かれています。そうした絵画を鑑賞するときには、宗教的な知識が生きると感じるとのこと。

様々なジャンルの知識に触れ、専門家に気軽に質問できる大学の環境を最大限活用してほしいという真由美さん。「大学生の時にしたことは決して無駄にならないので、ぜひ貪欲に学び、たくさんの人と関わってください」とおっしゃっていました。

展示室にて。手前に見えるのは現代作家・桝本純子さんの 彫刻《森へ》(2022年)。

今日の美術館散歩、お楽しみいただけましたか? お散歩日和の空きコマには美術館へ……そんな気持ちで、芸術を日常に取り入れてみたいですね。寒さに体が縮こまりがちなこの季節、芸術に胸を熱くしてみてはいかがでしょうか? 戸嶋靖昌記念館への来館には、事前に電話予約が必要です。詳細は、ウェブサイトをご確認ください。

戸嶋靖昌記念館

ウェブサイト:http://shigyo-sosyu.jp/index.html
住所:東京都千代田区麹町1-10 バイオテックビル (株)日本生物科学内
電話番号:03-3511-8162
開館時間:午前11時~午後6時
休館日:日祝・月曜定休
入館料:無料

れいれい
名前
れいれい
所属
国際教養学部 国際教養学科
〇〇がすき!
美術館めぐりがすき!
上智のいいところ
何時間でもいたくなる図書館