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上智学生記者クラブ通信

#356 アンコール・ワット救済からはじまった国際協力
カンボジア現地・上智大学構内で研究を行う教育研究拠点「アジア人材養成研究センター」

2026.05.01

こんにちは! ゆづです。

皆さんは6号館1階にある「展示場」を見たことはありますか? これは世界遺産アンコール・ワットの模型ですが……。「なぜここに?」と思われたことがある方はいらっしゃいませんか? 実はこの木彫の大模型は、カンボジアの彫刻家が作成したもので、「アジア人材養成研究センター」(2号館16階)がカンボジアから持ち帰ったものです。また、7号館横の庭園には、カンボジア王国政府からアンコール・ワット西参道の保存修復と人材教育への感謝として、アンコール・ワットのオリジナルの石材が上智大学に寄贈され、展示されています。

世界遺産アンコール・ワットの模型

2号館5階より上の階は研究室フロアにあたるため、所属する学部・学科以外の階は足を踏み入れたことのない方も多くいらっしゃるでしょう。16階に位置するこの「アジア人材養成研究センター」には、上智大生であれば誰でも利用可能(要事前申込)なアジア外交史研究(カンボジア和平)の資料を収集した「アジア外交・今川文庫」(★)があるのです! 

私は昨年から、このセンターでアルバイトをしています。その経験から、今回の記事では、センターの活動紹介及びセンター所長の石澤良昭先生(1961年フランス語学科卒・第13代上智大学学長)のインタビューをお届けします。

(★)カンボジア和平を推進した日本国特命全権大使今川幸雄閣下の全蔵書および陶磁器などが上智大へ寄付され、アジア外交史を研究する学生のために開設されました。日本語を中心に英語・フランス語・カンボジア語の参考文献が中心です。

〇アジア人材養成研究センターとは?

「アジア外交・今川文庫」があるセンター会議室

「アジア人材養成研究センター」の本部はカンボジアのシェムリアップ市内に在り、上智大学2号館16階はその分室となります。所長を務めているのは、フランス語学科卒業生の石澤良昭先生。

このセンターは、カンボジアに在る世界遺産「アンコール・ワット」の保存・修復技術等の教育とその実習、さらに修復と工事を通じて、遺跡発掘と修復工事を担当する「遺跡保存官(コンサベイター)」を育成しています。

石澤先生は大学在学中の1960年にフランス極東学院アンコール保存センターでの「生」のフランス語研修のため、カンボジアへ渡られました。そのカンボジアでは1970年から1993年にかけて4派による内戦があり、数百万人の難民がタイ国境へ押し寄せました。大司教J.ピタウ、第7代上智大学長が、1979年12月新宿駅で募金活動を行い、難民キャンプに届けました。そして、内戦のためアンコール・ワットをはじめとする文化遺産も大きな被害を受けました。それがはじまりです。

石澤先生は、1980年に日本テレビの取材で、内戦による遺跡の荒廃を現地調査し、国際社会に報告、訴えました。しかし、ベトナムの傀儡政権といわれたヘン・サムリン政権には国際社会から何の援助もありませんでした。破壊が進むアンコール遺跡の修復・保全を行うため、上智大学は緊急の国際奉仕活動「ソフィア・ミッション」(後述)を組織し、ミャンマー・タイ・インドネシアの専門家を中心に「アンコール遺跡国際調査団」を立ち上げ、それ以来、国際奉仕活動を行っています。

書物からフィルムまでさまざまな資・史料を持つセンター

ナーガ上の座仏像(レプリカ)

現在は、フランス語学科の学生がセンター業務の手伝いに携わらせていただいています。業務の中で石澤先生の文献やアンコール・ワットに関連する貴重資料を間近に触れることができ、建設から900年以上が経つアンコール・ワットへの畏敬の念が高まりました。

〇 センターの活動基盤にあるソフィア・ミッションの理念とは?

ソフィア・ミッションとは、上智大学の学生・教職員・関係者によって行われる、困って助けを求めている人の前を黙って通り過ぎない「国際奉仕活動」を指します。石澤先生率いる「アンコール遺跡国際調査団」は、「カンボジアの遺跡をカンボジア人の手により保存修復できること」を目標に33年にわたって新保存官教育を遺跡現場で実施してきました。アンコール・ワットの西参道はその研修現場であり、アンコール・ワットを救済する現場でした。

上智大学は1979年より内戦で難民となったカンボジアの人々の救済を開始、そして、カンボジアの文化復興・平和構築を使命として、現地に教育研究の施設として「上智大学アジア人材養成研究センター」を開設しました(上智大学アジア人材養成研究センターhttps://dept.sophia.ac.jp/is/angkor/about/ 2026-03-04参照)。

〇 「アジア外交・今川文庫」の利用方法は?

さて、記事冒頭で「上智生と上智の教職員であれば誰でも利用可能な文庫がある」と記載しましたが、アジア人材養成研究センターでは、その「アジア外交・今川文庫」を事前申込制で利用することができます。

「アジア外交・今川文庫」では、カンボジア和平(1993年)後、初代のカンボジアの特命全権大使を務められた故・今川幸雄閣下のご著書やカンボジアで収集された学術書、クメール陶磁器が公開展示されています。「カンボジア研究をさらに進めるために」とセンターに寄贈され、その数は653冊にのぼります!

「アジア外交・今川文庫」

「アジア外交・今川文庫」には、カンボジアをはじめとする東南アジアの入門書から、現地でしか入手ができない貴重資料まで幅広い文献が収められています。この文庫には、一つ一つの文献についての目録も設置されており、カンボジアや東南アジア諸国について初めて知るという方でも、その資料や文献の概要をつかむことができます。

閲覧は事前申込制のため、希望する方はアジア人材養成研究センターにお問い合わせください!(連絡先は記事末尾に記載しています)

〇 石澤良昭先生ってどんな方?

この記事冒頭にも書いたように、石澤先生はフランス語学科の卒業生! (私は直属の後輩にあたります……!)。

石澤先生のご専門は、東南アジア史やカンボジア・アンコール時代の碑刻文学(石柱や石壁に刻み付けられた寄進文書を研究する学問)です。1961年にフランス語学科を卒業された後、当時フランス語学科の教授であったポール・リーチ神父様から当時アンコール・ワット研究の第一人者であったベルナール・グロリエ教授への紹介を受け、卒業と同時にカンボジア現地においてクメール語碑刻文を研究し解読する10カ月遺跡研修を受けました。そして、アンコール・ワットの研究へ転進、遺跡の保存と修復活動、遺跡修復の担い手育成にあたられました。2005年から2011年まで上智大学の学長を務められました。その功績及びカンボジアへの貢献から、2017年には、「アジアのノーベル賞」と呼ばれる「ラモン・マグサイサイ賞」を受賞され、現在もアジア人材養成研究センター所長として研究活動を推進されています。

インタビューにあたたかく応じてくださった石澤先生

〇 石澤先生へのインタビュー

Q. ソフィア・ミッション実施にあたり、石澤先生が重んじてこられた信念と方針について教えてください。

(石澤先生)

その活動指針には複数ありますが、その中から二つに絞ってお伝えしたいと思います。一つ目に、東南アジアの人たちとの信頼関係の構築です。私たちの基本は、「国際協力とは人間の協力」であるという極めて単純なものです。遺跡保存活動の領域では、肌の色、言葉の壁を突き破り、個々人のレベルでどれだけ「国境のない信頼関係」が構築されるかに活動が左右されます。私たちの国際協力は遺跡の保存修復援助から始まりましたが、遺跡だけに的を絞らず、カンボジアの人々の村落や宗教行事、遺跡周辺に広がる森林などの自然環境も対象として活動を継続してきました。遺跡のみならず、カンボジアの村人たちの宗教行事、村落調査、自然環境を知り、現地へ出かけて学ぶことで信用度(クレディビリティ)を高めていくことに力を入れました。

二つ目に、上智大学の理念でもある「他者のために、他者とともに」という考え方が基本です。この「他者のために」というのはイエズス会の趣旨でもあります。ソフィア・ミッションという言葉はもともとイエズス会の神父様たちが始めた「国際奉仕活動」を指していました。上智大学は、アジアでは数少ないカトリックの大学です。私たちは長年、「アジアでは少数のカトリック大学が、他者のために何ができるのか?」という問いをいつも抱えてきました。活動の中で、私たちの使命は第一に難民救済と遺跡を救済できる人材養成(アンコール・ワットなどの遺跡保存官(コンサベイター)など)にあると考え、今日まで継続してきました。

Q. 上智大センターは文化遺産の保護や保護の担い手の育成を通じて、カンボジアの平和構築へ貢献してきたと思います。平和構築に文化遺産が果たす役割やそれが持つ隠れた文化の力について、石澤先生はどのように考えられていますか?

(石澤先生)

その土地に強く根付いた文化は、そこで暮らす人々の精神的支柱となる宗教行事(例えば寺院の活動を手伝う)と考えています。そして、宗教行事を通して、村人は平和構築に向けて協働することができます。

なぜ、私たちはアンコール・ワットを選んだのか。カンボジアは24年間にわたって内戦を行ってきました。彼らが和解して赦し合う場は、どこが相応しいだろうと考えました。ポル・ポト政権により外国の文化に汚染されているとして行方不明となった知識人や保存官たちに代わる遺跡保存官教育を人材養成の使命としてきた私たちにとって、カンボジアの人々誰もが崇敬し、自身のアイデンティティとして捉えている遺跡アンコール・ワットは、カンボジアの平和構築に必然の場でもあったのです。アンコール・ワットの保存修復工事現場が、内戦を行ってきた人たちが和解の場として、新しいカンボジアを建設する一つのきっかけになればと願い、西参道を選びました。私は、遺跡の救済は民族の誇りの救済と同義であると考えています。アンコール・ワットという民族の文化遺産を通して、そこで実施されている宗教行事を介してカンボジアの人々が元気を取り戻してほしいと強く願っていました。

Q. ソフィア・ミッションにおいて、現在先生が取り組まれていることについて教えてください。

(石澤先生)

最近は、これまで行ってきた難民救済と遺跡救済の結果や活動記録を執筆した文献をまとめ、その取り組みを振り返る段階に入っています。それと同時に、私たちは日本政府の支援のもと、「ASEAN(東南アジア諸国連合)10ヵ国との拠点交流事業」を10年以上続けています。この枠組みの中で、ASEAN各国の文化遺産担当者や博物館のキュレイターを現地(カンボジア)の上智大センターに招聘し、国際会議や報告会を開催してきました。文化遺産教育のためのテキスト作成が目的です。

交流事業の報告書であるカントリー・レポート

Q. 上智の現役学生にお勧めする、センターの利用方法を教えてください。

(石澤先生)

センターは四谷キャンパスとカンボジア現地両方にあるので、みなさんをお待ちしています。四谷キャンパスのセンターでは、「アジア外交・今川文庫」をぜひ利用してほしいです。特にカンボジアの現代史の分野においては、貴重な文献がたくさん含まれています。そして、上智の学生さんには、ソフィア・ミッション(国際奉仕活動)の現場を見学する目的で、カンボジア現地のセンターへ来てほしいです。アンコール・ワット西参道の修復現場に立ってほしいのです。段差ができて通行できなかった参道がきれいに修復されています。カンボジアへ来訪して、900年前に建設されたアンコール・ワットの大尖塔(65m相当、ビルでいうと8階の高さ)に登り、接着剤なしの石積技術を検分してほしいです。

Q. ソフィア・ミッションを受け継ぐ上智の現役学生へのメッセージをお願いします。

(石澤先生)

文化学術交流をする際には、お互いに文化活動を共有し、共通点を見つけてもらいたいです。日本とカンボジアの違いも見つけてほしいのです。そのやり取りの中で、きっと「人間同士やっていることはそう変わらないんだ」という気づきが得られると思います。私はそのようなやり取りを出発点に、お互いの信頼や尊重の念が高まると考えています。ですから、現役の学生の皆さんには、世界各地を歩いてみてほしいのです。

また、外国語を学ぶ意義についても積極的に考えてもらいたいです。私はこれまでさまざまな言語を学習してきましたが、特にフランス語とカンボジア語が私の世界を広げるきっかけになりました。新しい外国語の学習により、自らの世界を二倍にも、三倍にも、活動場所が何倍にでも広げられます。日本語・英語だけでなく、他の言語も学び世界を見てほしいと思っています。

〇 おわりに

「国際協力とは人間の協力」。この考えに基づき、アンコール・ワットの修復のみならず、文化復興の担い手となる人材育成も行ってきた「アジア人材養成研究センター」。その最前線で活動されてきた石澤先生から、国境や肌の色を超えた活動の意味、言語を介在しない察しの気持ち、そして外国語を学ぶ意義などについて直々に伺うことができました。本記事で初めてセンターを知ったという方もいらっしゃると思いますが、センターには今川文庫のように、上智大生のために「開かれた」アジアの研究現場があります。センターの活動やソフィア・ミッションの軌跡について知るために、ぜひ一度センターに足を運んでいただきたいです!

【参考】

上智大学アジア人材養成研究センターWebサイト:

https://dept.sophia.ac.jp/is/angkor/about

【アジア人材養成研究センター連絡先】

sacrhd(at)ml.sophia.ac.jp ※(at)を@に置き換えてください

本記事の執筆にあたり、石澤良昭先生に多大なるご協力を賜りました。ご協力いただき、ありがとうございました。

ゆづ
名前
ゆづ
所属
外国語学部フランス語学科
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